研究
追加日: 2021年8月6日
発表年(月): 2014年
発表年(月): 2014年
律を生きる出家者たち
上座仏教徒社会ミャンマーにおける僧院組織改革の行方
藏本 龍介 (著)
【概要 / 抜粋】
「上座仏教(Theravāda Buddhism)」の出家者は,教義をどのように実践しているのか。本論文ではこの問題を,出家者の経済的な問題,つまり「カネ」を中心とする財の問題に注目して検討する。
キリスト教,イスラーム,仏教など,確立した聖典をもつ制度宗教は,いかに日常を生きるべきかという問題について,教義的な指針をもっている。それが宗教の経済倫理と呼ばれるものである。この問題について体系的な比較研究を行ったウェーバー(M. Weber)は,各宗教の経済倫理を,①現世指向的と②現世逃避的という二つを極とするスペクトルとして整理している1)。そしてプロテスタンティズムを事例として,「現世内禁欲」という現世指向的な経済倫理が,持続的かつ合理的に利潤を追求するという資本主義の精神(エートス)と親和性が高かったがゆえに,この経済倫理を最も強く内面化した新興の産業資本家層が先導する形で,西洋において資本主義が勃興したという議論を展開している(ウェーバー1989)。このようにウェーバーが注目しているのは,宗教の経済倫理が信徒の宗教実践を突き動かし,それが現実を変えていくという側面である。
しかし現実には,経済倫理の求めるとおりには生きられないような状況が生じうる。つまりある宗教の教義を実践するというのは,潜在的なジレンマを内包している。こうしたジレンマは,本論文が対象とする上座仏教の出家者において,特に顕著にみられる。なぜなら「律(P2): vinaya)」と呼ばれる上座仏
教教義は,出家者に対して,経済的な問題に関わることを厳しく制限しているからである。
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